大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和50年(行ツ)23号 判決

上告人

市川善三郎

外二名

右三名訴訟代理人

田代源七郎

被上告人

郡馬県知事

神田坤六

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人田代源七郎の上告理由について

上告人らは本件各売渡処分の無効を前提として国に対し本件各土地についての売払いの申請に対する承諾の意思表示を求める訴えを提起することができるのであるから(最高裁昭和四二年(行ツ)第五二号同四六年一月二〇日大法廷判決・民集二五巻一号一頁、昭和四三年(行ツ)第四六号同四七年三月一七日第二小法廷判決・民集二六巻二号二三一頁参照)、現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができるものというべく、したがつて、本件無効確認の訴えは行政事件訴訟法三六条により原告適格を欠くものとして却下を免かれないとした原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないでこれを非難するか、あるいは独自の見解に基づいて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎 吉田豊)

上告代理人田代源七郎の上告理由

第一点 原審判決は、行政事件訴訟法三六条の解釈を誤り、且つ、御庁の判例に違反すると思料する。

原審判決は、判決理由一項本文で「控訴人らは本件各売渡処分の無効を前提として国に対し本件各土地についての売払いの申請に対する承諾の意思表示を求めることができるのであるから、これ即ち現在の法律関係に関する訴によつて目的を達することができるものというべく、従つて本件無効確認訴訟の訴は行政事件訴訟法三六条により原告適格を欠くものとして却下を免れない」(次に記載するほかは原審の判断と同一である、とある点参照)、とし、同項(二)で『行訴法三六条にいう「目的を達する」とは「処分の無効等を前提とする現在の法律関係に関する訴の形態をとることができる」ことを意味するに止まり』としているが、行政事件訴訟法(以下行訴法という)三六条には「現在の法律関係に関する訴えにより」とあり、御庁昭和四二年(行ツ)第五二号農地売渡処分取消請求事件につき大法廷が昭和四六年一月二〇日に言渡した判決(以下大法廷判例という)には「旧所有者は――中略――法八〇条一項の農林大臣の認定の有無にかかわらず農林大臣に対し当該土地の売払いをすべきこと、すなわち買受けの申込に応じその承諾すべきことを求めることができ、農林大臣がこれに応じないときは、民事訴訟手続により農林大臣に対し同義務の履行を求めることができるものというべきである」とあるのに、前記原審審判決理由一項本文の「国に本件各土地について売払いの申請に対する承諾の意思表示を求めることができる」は「行訴法三六条の訴え」及び大法廷の「農林大臣に対し民事訴訟手続により売払いの義務の履行を求めることができる」に該当しないし、原審判決理由一項(二)の「訴えの形態をとることができる」は、右原審判決理由一項本文と綜合しても具体的にどういう訴訟形態をとることができるのか判然しない。要するに原審判決は、「訴え」につき行訴法三六条及び大法廷判例の解釈を誤つたものである。

なお、右原審判決が、上告人らにどういう訴権があるのか、どういう訴訟形態をとることができるのか等を示さないで現在の法律関係に関する訴えにより目的を達することができるとしたのは、理由不備の違法あるものである。でなければ、行訴法三六条に関する御庁昭和三九年(行ツ)第九五号農地買収処分無効確認請求事件につき第二小法廷が昭和四五年一月六日に言渡した判決(以下第二小法廷判決という)に「右にいう当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないとは、処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟または民事訴訟によつては、本来、その処分によつて被つている不利益を排除することができないことをいうのである」と具体的に訴訟形態を示しているのに反する。

次に、原審判決は、行訴法三六条を制限的に解釈すべきものとし、その理由として、「行訴法三六条の趣旨が、無効確認訴訟を他の訴訟方式によつては救済しえない場合の、補充的救済方法として制限的に認めようとしたものであることから、窺うことができる。」としている。行訴法三六条が、無効確認訴訟を加えた規定であることには異論ないが、度を越えた限定解釈(原審判決が限定解釈として免脱したものであることは前述のとおり)は誤りである。蓋し、無効確認訴訟も国民の権利救済のためのものであり、憲法は、憲法が保障する国民の自由、権利は最大限に尊重されるとしているのであるから、法論理的に可能な限り国民の有利になる解釈を図り、取消訴訟中心主義を補完(補充ではない)、する機能を無効確認訴訟に十分に果させなければならないからである。度を越えた限定解釈が許さるべきでないことは、取消訴訟に関する大部分の規定が三八条等により大部分準用されていることからも窺える。

追つて、上告人ら、本件無効確認訴訟を適法と主張するために大法廷判例を引用するものでないことを一言して置く。

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